【7】いま、ここで叫ぶ

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「中井くん。本音を聞かせて。ギターは嫌い?」 嫌いだ、あれは傷付けるばかりのもの。 マメもできるし、手入れも面倒だし、何をするにしても手が掛かる。ギターは嫌いだ、大嫌いだ。 いつも自分に言い聞かせる用に作った魔法の言葉が口に出せない。 仲井さんに嘘はつけない。ついたところで、それは嘘だと見破られてしまう。 「こわいんだ。ギターと向き合うことが。それをまた好きだと思うかもしれない、自分がいそうで」 こみ上げてくるのは、飾りっ気のない本音だった。 「ギターに打ち込むぼくを否定されることが、なによりも怖くて。陰口を叩かれたら、今度こそぼくは崩れそうで」 そうなる前に、ぼくはいつも自分を否定していた。 他人から否定されるくらいなら、自分で自分を否定した方がずっとマシだと思ったから。 「中井くん、周りがきみを否定してもわたしは味方でいるよ。自分の気持ちと向き合ってみよう。これはチャンスだよ」 「向き合う……仲井さん、ぼくのせいで気分がまた悪くなるかもしれないよ」 「きみの気持ちを受け止めることは平気。わたしが一番つらいのはね、中井くんが自分に嘘をつき続けることなんだ。いっしょに泣きたくなっちゃう」 もう、嘘をつくのはやめよう。自分の気持ちと向き合ってみよう。仲井さんが包み込んだ左手をさすってくる。 「わたしは中井くんの本当の気持ちと向き合うから、中井くんは自分の本当の気持ちと向き合ってみて。 大丈夫、ひとりじゃない。わたし達は“ナカナカ”コンビ、いつもいっしょだよ」 視聴覚室に吹き抜けていく風は火照った頬の熱を攫った。 残暑が弱くなった涼しい風は、少しならず秋を思わせてくれる。 その秋風を一身に浴びたぼくは、心の底から応援してくれる女の子と瞬きも目が放せない。 どうして、そこまでぼくにしてくれるのか、とさえ思った。 「こ、わいんだ」 「うん」 彼女がいっしょにいてくれるだけで胸が熱い。 「すごく、こわいんだ。自分の気持ちと向き合うことが。もう傷付きたくなくて」 「うん」 本当の自分と向き合おうとするだけで心臓が痛い。 「だけど、本当は」 こみ上げてくる感情のせいで呼吸を忘れそうになった。 「もう一度、大好きだったギターを弾きたい――あの頃みたいに、夢中になってギターを弾いてみたいんだ」
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