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隣りの人
次の駅を告げるアナウンスで僕は目を覚ました。少し慌てて起きたもののそこは僕が降りる駅ではなかった。目的地までの道のりはまだ長く、しばらくはこの列車に乗っていなければならない。とりあえず僕は、寝起きの粘つく口を飲み物ですすぐことにした。ミント系の味がするその飲み物は僕の頭をすっきりさせ、自分が受験生であることを否応なく思い出させた。僕は今この列車に揺られ、受験のために志望大学のある都市に向かっているのだ。
周囲では次の駅で降りるであろう客が席を立ち、コートを羽織るなどして準備をしている。まだすぐに着くわけでもないのに、せっかちな人たちだなと思いながら、僕は窓の外を見た。車窓からは鋼鉄製の外壁しか見えず、移りゆく景色に変わり映えはなかった。やがて、列車のスピードが遅くなる。それは体でも実感できるものだ。衰えていくスピードに僕は快感を覚えた。それはこの乗り物が本当に動き、僕を運んでいることの証左に違いないと思えたからだ。到着駅は、名前くらいしか聞いたことのない観光地だった。少しの停車で、乗客が入れ替わると車内は再び落ち着きを取り戻した。
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