0人が本棚に入れています
本棚に追加
一度、父に訊いたことがある。
中学3年の夏の日。
わたしは反抗期の真っ最中。
母はやはり仕事に出ていて、わたしと父は買ってきたフライドチキンを家で食べていた。
夜だというのに暑くて、受験勉強も煮詰まっていて、ついでに蝉の声がやかましくて、なんとなくいらいらしていた。
腹の底から、意地悪をしたい気分だった。
「ねえ、わたしって本当に、二人の子ども?」
父はしばらく咀嚼を続けた。
そして、紙ナプキンで油を拭った指で頭を掻きつつ、「うん」とだけ言った。
わたしはその後に続く言葉を辛抱強く待ったが、結局父はそれ以上何も言わず、下を向いたままもそもそとチキンを食べ続けた。
会話終了。
父は何も疑っていないんだろうか。
それとも、何か知った上で、この態度なんだろうか。
どうしてそんなに落ち着いていられるの?
わたし、とんでもないことを言ったよ。
あなたの愛する妻の不貞を疑ったんだよ。
「馬鹿言うな」って叱り飛ばしていいんだよ。
今思えば、父に怒鳴って叱られたことなど一度もない。
やっぱり自分の子どもじゃないから?
疑心暗鬼はわたしとともに、すくすくと育っていった。
最初のコメントを投稿しよう!