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5.
祐也の言うほどではなかったけれど、ことは順調に進んでいった。
店内が意外と明るく、清潔感に溢れていたことにまずほっとした。
なんとなく、献血ルームの待合室に雰囲気が似ているような気がする。
献血なんて、したことないけれど。
受付に向かうと、クリップボードに挟まれた2枚の書類と、ジップ付きの小さなポリ袋を差し出された。
何か具体的な説明がされるのだろうと受付嬢の顔を見つめていたが、彼女は事務的な笑顔で右腕を上げ、背後のソファを指して勧めただけだった。
まずはそこに座って書類を書け、ということらしい。
いつでも出せるようにと握りしめていた学生証と保険証をポケットに滑りこませ、クリップボードを受け取る。
1枚はアンケートのような軽いもので、年齢、性別に始まり、調べて欲しいことや、ここに来た理由などを簡単に書くようだった。
「来る途中、道に迷いませんでしたか?」なんて項目もある。
もう1枚はやや堅い文体で、紹介者の名前と、守秘義務に関する署名をお願いします、というような内容が書かれている。
どちらも流し読みでさらさらとペンを走らせる。
ものの数分で完成させた書類と、ポリ袋へ移し替えた髪の毛を提出しに行く。
受付嬢は厳しい眼差しをしばらく書類に注いだあと、また貼り付けたような笑みで
「結構です」
とだけ言った。
番号の書かれたプラスチックの札が手渡され、またソファへと促される。
8番。
縁起は良さそう。
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