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ファミレスで祐也と会話をした2日後の土曜日。 わたしはとうとうこの「店」に来る決心をした。 鞄の中には、カメラのフィルムケース(フィルムが入っているところは見たことがないので、そのまま拝借した)に入れた2本の髪の毛。 父と母のものだ。 ついさっき、2人の頭から抜いてきたもの。 入手は簡単。 だって家族だもの。 「あ、ママ、白髪があるよ」 「ほんと? 抜いて抜いて!」 こんな会話なら、だいたい一週間にいっぺんは交わされているから、少しも不自然じゃない。 ただ、この日は白髪がなかったから、死角になりそうなところから一本黒髪を失敬した。 父の髪は、とても引き抜く気にはなれなかった。 洗面所で髪を梳かすたびにはらはらと落ちてゆくそれを、淋しい気持ちで見守りつつ、後でこっそりと失敬した。
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