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私は本屋を見た。やっぱり、もう営業していた頃の影もない。慌てて出てきた扉は数センチ程度開いていて、引き違い戸の上半分に嵌め込まれた窓は汚れと暗闇で奥が見えず、不気味に佇んでいた。
それでもきっと、お父さんには見えているのだろう。その隙間から見えるカウンターで、小豆色のセーターを着たおばあちゃんが、新聞を読んでいるのが。
「おばあちゃん、いつかおじいちゃんに会えるかしら」
お父さんは煙草を吸い殻入れに落とした。
「さあな。でも、もうここには来ない方がいいだろう」
お父さんは徐にポケットから鍵を取り出すと、エンジンをかけた。
「送ってくよ」
ブォンと音を立てて車は走り出す。裏道を抜け、駅に続く国道に出ると、さっきまでの城下町の風景が嘘のようにビルが建ち並んでいる。後ろに流れていく街路灯を眺めながら、きっともう、あの城下町にさえ近づかないだろう。そんな気がしていた。
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