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「まいどさんねぇ」
おばあちゃんはふにゃりと笑った。私もその笑顔が嬉しくて、笑い返す。細められていく狭い視界の中で、おばあちゃんが本を受け取ろうとしている。
「紗輝!」
その声にハタとした。今の声は、何?どこかで聞いたことのある、太い声…。
「紗輝!」
今度は呼ばれると同時に、肩を掴まれた。振り返るとそこには…
「お父さん!?なんでこんなところに!」
そう言いながら、異変に気づいてギクリとした。店内は暗く、本なんて一冊もない。とてもカビ臭くて、部屋の隅には蜘蛛の巣がかかっている。ただ、狭い通路と大きな2つの棚は、間違いなく、ここが「八百屋」であると知らせていた。
「とにかく、出るぞ」
わけがわからぬまま、手を引かれて店を出た。路上に停めてある白いノートの助手席に乗り込む。
「お父さん…どういうこと?」
何から聞いていいのかわからなかった。運転席に座るお父さんの向こう側に見える本屋は、薄汚くてとても営業しているとは思えない。無論、出入口の両側にも一切本はなく、埃かぶった台がひっそりと鎮座していた。
「おばあちゃんは…本屋なんか、やっていないんだ」
お父さんは開口一番にそう言った。
「えっと、ごめん。どういうこと?」
ボキャブラリーに欠ける言葉を返して後悔した。これでは、お父さんも何を答えていいのかわからないのではないか?
「お父さんは、ずっと嘘をついていたんだよ」
「えっと、まず、お父さんはどうしてここにいるの?」
言いながら、頭の中でも聞きたいことを整理する。お父さんがここにいる理由。店の様子が一瞬で変わったこと。それから、お父さんがついていたという嘘について。
「ああ、ごめん。なんだか胸騒ぎを感じてね」
「胸騒ぎ?」
「お父さんは、そういう人なのさ。第六感、ていうのかな」
ああ、と心のどこかで腑に落ちた。なんだか心当たりがあったのだ。
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