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それは、とても大事な人だった気がする。
掃除中に見付けた手紙を見て、目の奥が熱くなった。
誰だったのか、僕には思い出せないのだけれど。それでも、手紙を見ただけで泣けてきた。
ただ、1度だけでも、この手紙のぬし似合うことは出来ないだろうか。
きっとそれは夢よりも儚い希望。
「そんなに会いたいの?」
耳元で囁かれた気がした。
ぞわりと冷たいものが走り、勢いよく振り返る。
「なんだ、これ。」
部屋には見慣れない扉があった。
この先に行けば、さっきの人物に会えるだろうか。
そっと扉を開けると、そこには奇妙な空間。
「いらっしゃいませ。」
どこかの店のように棚はあるのに、置いてあるのは一つの瓶。
中には黒い砂のようなものが入っている。
「こんなにすぐ新しいお客さんが来てくれるなんて。僕はやっぱり運がいい。」
扉がひとりでに閉まる。急いで開けようとしたが、鍵がかかったように開かない。
「ダメだよお客さん。商品をまだ渡していない。」
「そんなものは必要ない。」
僕はただ掃除をしていただけなんだ。早く帰してくれ。
「でもね、支払い済みの商品は他に回せないんだよ?良いから早く来なさい。」
支払いなどしていないが、物だけ貰えば帰してもらえるだろう。
「やっと来た。これが君が買ったもの。あと、初回さんだから、これもあげる。」
渡されたものは、桃色の珠とネックレス。
「これで帰ってもいいのか。」
「うん。もういいよ。」
それだけを持って、さっさと部屋から出た。
『あなた、まだこれを持っていてくれたのね。』
優しい声、甘い香り。思い出される記憶。
僕の部屋で、見覚えのある女性が微笑みかけてきた。
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