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その歪んだ愛情は
目覚めると、やけに白い天井が目に入った。
ゆっくりと体を起こす。
病院のようだった。傍らには、椅子に腰かけた隆司が、じい、とこちらを見ていた。
「……よかった」
安心したように微笑む夫に、佳代子は、何も言えなかった。ただ、ぼんやりとその顔を見つめていた。
男。
首に絡みついた手。
まるで朝顔の、蔦のように。
「倒れていたんだ、お前。……心配したんだぞ」
「そう」
出した声は、思いの外冷たかった。何故夫が、自分が出かけた後の佳代子を見つけることができたのであろうか。そんなこと、決まっている。
そう、決まっている。
「……子供は?」
「無事だ」
「そう……」
隆司は、ずっと見ていたのだ。あの時から。いちばん近くで、佳代子を見ていた。
「そうだ、子供の名前、考えたんだ、俺」
「……どんな名前?」
「アイ、っていうのは、どうかな?」
そう告げる夫の目が、異様に光っている。佳代子は息をそっと吸って、にこやかに微笑んだ。
「素敵な名前ね」
もうどんなことがあっても、自分は隆司を怒らせることは出来ない。思い出したことを、絶対に気づかれてはいけない。
佳代子は、隆司の手を握り締めた。隆司も微笑んで佳代子の手を握り返す。その瞳に映った自分の顔は、醜く歪んでいた。
これから先、一生続く地獄を覚悟した、女の顔であった。
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