その奇妙な花屋は

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「そういうつもりで見ていたわけでは、ないですし、いただく理由もありませんし……」 「いいんですよ。これも何かの縁ですし。理由は、そうですね、僕からの、退職のお祝いということで、いかがでしょう」 「でも、ここお店でしょう? いただくなんて……」  佳代子は焦った。何の気なしに見つめていた花を、無料で譲るというのだ、この青年は。もしかしたら新手の詐欺ではないか。タダと言っておいて、あとから高額な請求をされたらたまったものではない。  そういった佳代子の不安を察したのであろう、青年は人好きのする笑顔を浮かべ、口元に手を添えた。そして、秘密ですよ、と言った風情で、佳代子に囁いたのである。 「実はこの株、少しだけ問題がありまして……ああ、いいえ。売り物にするにはという意味です。このままだと廃棄になってしまうので。勿論僕はお客様の住所を控えたりだとか、連絡先を聞いたりだとかも致しませんし、ご安心ください。この――朝顔、を助けると思って。よろしければ」  随分と熱心に勧めてくる。  佳代子は朝顔に目を移した。三本の支柱に絡まる蔦は生き生きとしているし、葉もつやりとして瑞々しい。愛らしく膨らんだ蕾は、朝を今か今かと待ち望んでいるようにも見えて、思わず佳代子は微笑んだ。  丁度いいのかもしれない。  仕事を辞めた自分には、世話をするものが必要だ。そう、思った。 「それじゃあ、ありがたく……」  そう言うと、青年は、にっこりと笑った。何かを含んでいるような、印象的な笑みであった。
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