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隆司は、少々過保護なところがあった。
所謂、幼馴染の恋愛であったのだ。とはいっても、佳代子がまだ黄色い帽子を被り、ランドセルを背負っている頃に、隆司は近所で大学生をやっていたのだから、一緒に遊ぶというよりは、自分を導いてくれる先生と生徒のような関係であった。
だからであろう。隆司が、まるで自分を囲い込むようなことをしたがるのは。彼は、佳代子が社会と関わるのをよしとせず、手元に置きたがるような節があった。
専業主婦に、と言う話をすると、同僚たちは羨ましいと口にしたものだ。けれど、佳代子にとって、それは退屈な日々を意味する言葉だった。
夫の為にご飯を作り、掃除をし、夫の帰宅を待つ日々。
とても耐えられる自信がない。佳代子は自分がそういったことに向いていないことをよく自覚している。
――朝顔、貰ってよかった。
夫と、自分のことだけの生活など、気が狂いそうだ。植物を育てるという別の要素が加わることは、良い刺激になるのかもしれない。
佳代子は軽く溜息を吐いた。
出来上がった味噌汁を椀に移し、白米をよそう。おかずはもやしと卵を炒めたものと、キャベツと豚バラ肉を交互に敷き詰めて蒸したミルフィーユ。帰宅後に急いで作ったので、どちらも手間はかかっていない。
「お待たせ」
佳代子が声をかけると、隆司は黙って新聞を畳んだ。
二人で食卓に付く。いただきます、と手を合わせたところで、隆司が今気づいたというように、にっこりと微笑んだ。
「そうだ。仕事、お疲れ様」
「え?」
「今日、退職だったんだろ」
「……うん、ありがとう」
心の中にじんわりと温かいものが広がっていくのを、佳代子は感じていた。心の中に巣食ったもやもやが、ゆっくり晴れていく。
それと同時に、先程感じた後悔がすうと消えていった。
夫は、確かに過保護で、そういった点では佳代子とはそりが合わないのかもしれないが、愛し、愛されているということは間違いないのである。夫婦として、それ以上のことはないのではないか。
仕事を続けられなかったことは、残念だったけれど。
この人の妻でよかった。
この人の子を、授かってよかった。
そう、思った。
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