その奇妙な思い出は

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「もう一人の体じゃないんだから、気を付けてくれよ」  そう言いながら、自分の頭を撫でる、手。  手。  絡みついて。  ――内緒だよ。 「――やめて!」  その手を、佳代子は思い切り跳ねのけた。  何故そんなことをしたのか、自分でも分からなかった。  隆司は目を丸くして、佳代子を見ている。その瞳が妙に恐ろしくて、佳代子は俯いた。 「……大丈夫か? さっきから変だぞ。何か、あったのか?」  その声に、おずおずと顔を上げると、彼は目に呆れた笑みを浮かべている。  佳代子はほっとした。  ――よかった。怒っていない。  怒らせてはいけない。隆司だけは絶対に。 「ごめん、ちょっと、疲れてるのかも」 「そうだな……。もう休むか?」 「うん、そうする」  笑みを浮かべながら、佳代子は彼の肩越しに朝顔を見た。三本の支柱に絡まる蔦。それはまるで――。  目覚めると、気持ちの良い朝であった。  佳代子は昨日と同じように、隆司を送り出すと、掃除、洗濯を済ませ、朝顔をベランダに出した。  心なしか、昨日の晩よりは元気になったようだ。萎れかけた蔓は痛々しかったが、きっと朝日が何とかしてくれるであろう。  昨日買ったじょうろで水をやり、差し込み式の肥料を、蔓の根元にぶすりと刺した。  佳代子はそのまましゃがみ込み、朝顔をじっくりと観察する。  自分は何かを忘れているような気がする。それも、重大なことだ。自分の人生の根幹に関わること。  朝顔。  蕾は、まだ開かないようだった。ぐるぐるとねじれたキャンディのような。  そこまで考えて、佳代子は目を見開いた。  ――キャンディみたい。  ――この蕾、キャンディみたい。 「アイちゃん……」  口をついて出た言葉に、佳代子は驚いた。
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