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ペダルを懸命にこいでお寺まで戻ってきた。
自転車のまま乗り入れる。
すると、わたしと同じように自転車のまま乗り入れてイチョウの木へ向かっている人がいた。
あたりは薄暗くなってきてよく見えない。
自転車の人物は自転車のライトも付け、懐中電灯も手に持って何か叫んでいる。
よく見ればイチョウから逃げる人影がふたつあった。
自転車の人物は懐中電灯を投げつけ、ひとりの首根っこをつかみ、なんとそのまま飛びかかってしまった。
わたしはイチョウのそばに自転車を止め、落ちていた帽子を拾った。
自転車の人物が馬乗りになって手錠をかけている。
「現行犯逮捕だ。わかってるな!」
制服を着た警察官がねじ伏せた男の服を乱暴に引っ張って立ち上がらせていた。
「あの……」
警察官に拾った帽子を差し出す。
「どうも」
警察官はにっこりとほほえんで受け取った帽子をかぶった。若いがそれほど大柄な人ではなくて、むしろ捕まえた男の方が胸板が厚かった。
「小学生かな? もう遅いから帰った方がいいね」
「はい……」
この男がご神木ばかりを狙った犯人か。
まじまじと見るのも怖いので回れ右をした。
「瀬戸……」
「え、ええっ!」
目の前にいたのは岡田くんだった。
自転車にまたがって息を切らせている。
「なんでここに」
「いろいろあってさ。話をしながら帰ろう」
「うん」
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