聞き耳ラジオ

10/14
前へ
/14ページ
次へ
 わたしはきょうもまた骨董品店に寄ってみた。  店内は相変わらず物音一つせず、店内に入ってもいらっしゃいの一言さえもなかった。  ディスプレイがどうだったか覚えてないが木製ラジオはきのうと同じ場所にあった。  きのうは気づかなかったが、束ねたコードのところに値札が付いている。  3000円なのか8000円なのか、文字がかすれて定かではない。  3000円なら――。  もし、ステファンと交信できるなら、買えない値段ではない。 「もしもし。森のキツツキさん。きょうもそこにいますか」 『はいはい。その声はきのうの人間の女の子だね』 「そうです。さっきお寺のイチョウまでいってきました」 『やっぱり。君だったか。ステファンが奇妙な女の子が来ているとおびえていたよ』 「おびえてた!?」 『ふぁっはっは。それはいいすぎかな。会ったこともないのに、自分の名前を知っていて驚いていたよ』  よかった。  ステファンが猫で。  いくらペットでも岡田くんとは会話できないだろう。  ショウマくんと同じくらいの年格好の女の子に追いかけられたよ、なんて報告されたくもない。 『やっぱり、君も気になってたの?』 「え?」  わたし、恋している男の子の飼い猫が気になってるなんていったかしら?  それに、「君も」ということは、他にも岡田くんのことを好きな子が? 『危ないと思うな』 「どういうこと?」 『きのうも話したけど』 「きのうも?」 『不穏な枯れ木事件』 「枯れ木事件?」  きのうはさっさと帰宅して話を最後まで聞いていなかった。 『人間の仕業の枯れ木事件。神社やお寺にあるご神木ばかりを狙って傷つけたり、薬品を注入して枯れさせたりしてる事件が起こってるでしょ』 「ああ」  ニュースで聞いたことがあった。  近くの神社でも被害に遭ったといっていた。 『今度はあのお寺のイチョウが狙われるかもしれない。ステファンも気が気じゃない様子だった。まったく。人間ってのは理解できないよ。真意は定かじゃないけど、宗教とか民族的な相違から物を壊したり木を切り倒したりするなんてね』
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加