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「それらのご神木は樹齢1000年を超えていなかったの?」
『幸いと――っていうか、幸いじゃないね。他の木だって相当長い年月を生き抜いてきた木だろうからね。長い歴史の中で、いろんな事がありながら、人間の生活のど真ん中で、数百年もその場所にあるってすごいよ。どんな不届き者かこの耳で確かめたいよ。だけどね、君がその犯人をとっ捕まえるには危険だと思うよ。ドリルを持って木に穴を開けているようなヤツだからね。ステファンにも、もし遭遇しても食ってかかるなよって、忠告したところなんだ』
いやいや、わたしはその犯人には興味はない。
ステファンが襲われそうになっていたのなら、危険を顧みずに助けるかもしれないが。
でもそういうことにしておこう。
ステファンに、ご主人様に片思いをしている女の子として認識されたらちょっと恥ずかしい。
そのとき、ガガガガとものすごい大きな音が聞こえた。
「なにこれ」
『これって……木を削る音か?』
「まさか!」
『あのイチョウか!』
「行かなくちゃ」
『やめろ!』
わたしは骨董品店を飛び出していた。
自転車にまたがりお寺を目指す。
不気味なイチョウだけど、ああやって千年以上もあがめられてきたんだ。
イチョウは日本原生ではないという。
誰かがここに植え、ここに住まう人々が守り抜いてきた。
現代人だってそれを引き継いで囲いを作り、支えを作り、どうにか生き抜いていけるように見守っているのだ。
なにより、ステファンの大好きな場所がなくなるなんて許せない。
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