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隣の岡田くんが直視できない。
並んで自転車を走らせ、夢であってもかまわないと幸せをかみしめた。
スマホの中で何度も見た黄緑色の岡田くんの自転車。
太めのタイヤがアスファルトを走る音までかっこいい。
「あのさ、どこかで聞いた声だと思ってたんだ。ずっと黙っててゴメンだけど」
「なんのこと?」
「実は、俺も森のキツツキの声を聞いてた」
「嘘でしょ!?」
「ほんと、嘘みたいな話だよな」
ちらりと岡田くんを見やると頭をかいていた。
「俺も、あの骨董品店でアンティークな椅子を買ったんだ。ロッキングチェアってやつをね」
それは知っていた。
西洋風の大きな椅子で、脚がゆりかごみたく揺れるようになっている椅子だという。
安楽椅子探偵の椅子と名付けてすごく気に入ってることも知っていたが、あの骨董品店で買ったことは知らなかった。
「その椅子でくつろいでいたら瀬戸が体験したみたいに、声が聞こえてきたんだ。で、ステファンの声まで聞こえてきてさ。猫ってあんまり飼い主になつかなくて、何考えてるのかわからないから、心の中の声が聞こえるのはおもしろいと思って、俺は聞く専門だったわけ。そしたら、ステファンのことを知ってる女子が、イチョウの木に穴をあけようとしている犯人のところへ向かおうとしてるじゃない。慌てて警察に通報しちゃったよ。たぶん、近くを通りかかった警官が現場に向かったんだろうね。もうすぐしたらパトカーもくると思うよ」
「ありがとう……」
「よかったよ。間に合って」
暗がりでよかった。
うれしすぎて赤らんだ顔がバレずにすむ。
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