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「でも、なんでステファンを知ってたの」
「あ……それは、その、三毛猫って珍しいから。どこかで聞いたんだと思う」
「そう! そうなんだよね。ステファンとはようやく出会えて。なんか、俺、ステファンのこと好きすぎてキモイって思ってる?」
わたしはかぶりを振った。
わたしだって……。
こっそり岡田くんのことかぎまわってる。
どうして三毛猫を飼いたかったのか。
推理小説が好きなことも知ってるし。
でもそれは岡田くんが知らないところで岡田くんの情報を得たものだ。
何も知らないふりして、今聞いた風によそおって。
「だから、俺が森のキツツキやステファンの声が聞こえるのは内緒ね。ステファンの本音が聞けなくなっちゃうから。あと。ありがとね。ステファンの大好きな場所を守ってくれて」
たぶん、岡田くんも、わたしも、純粋に好きなのだ。
純粋なのになぜだか少しズレて。
「うん……でも。ステファンの話を聞いてたら、わたし、岡田くんのこともいろいろ知っちゃいそう」
「それね。でもそこまではな。二度と動物たちの声を聞くなとまではいえないし」
「大丈夫。わたしはあのラジオを買ってないから。骨董品店でこっそり聞いてただけだから。もう聞くこともないと思う」
「あ、ほんと? それは助かる」
本当に約束できるだろうか。
岡田くんと別れ、骨董品店の前を通った。
シャッターが降りて店は閉まっていた。
あのとき、もし森のキツツキのいうとおり、イチョウのお寺へ行かなかったとしたら。
岡田くんに出くわして、こんな話もしなかっただろう。
そうしたらまたあのラジオを聞きに来ていたかもしれない。
あした、岡田くんとの約束を破って自分が骨董品店にやってきたとしたら。
あのラジオの、あのチカラがなくなっていればいいのに。
そう願わずにはいられなかった。
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