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その奇妙な店は、骨壺まで置かれているという噂があった。
クラスで一番の情報通かつ顔の広い藤川がいうのだから、そこそこの信憑性はある。
一応、骨董品店なのだから、年代物の骨壺であろう。
年代物っていうと、一度はお骨を入れて埋葬されていたということだろうか?
掘り返して売りに出すなんて、盗品でもない限りあり得ないと思うけども。
というより、買い手がないようなものを普通は買い取りしないはずだ。
だけども、その店はどんな曰くが付いたものであろうと、贋作であろうと、ド素人みたいなおじいさんが買い付けて、ゴミ屋敷と見間違うほどガラクタをため込んでいるような、風情もない骨董屋さんだった。
あまりにものが多すぎて、いや、そもそも興味もないので骨壺があることを確かめようともしなかった。
興味がないから覚えているはずもないのに、ガラス張りになった店舗内をチラ見するたびに、ぎゅうぎゅう詰めに置かれた陳列物が入れ替わっているような気さえする。
奇妙なのになんの印象にも残らない骨董品店だったけど、ピアノのお稽古からの帰り道、店の前を通りかかると、もそもそと誰かが話している声が聞こえてきた。
『ショウマくんの膝の上で――』
というフレーズに反応してしまったのだ。
それほど珍しい名前でもないけれども、好きな人と同じ名前に心臓がトクンと高鳴った。
しかも、膝の上で、膝の上でどうなるの。
盗み聞きなんてよくない。
よくないけど、すごく気になる。
ショウマくんって、あの岡田晶馬なのか。
そうだ。
わたしはバッグからスマホを取り出して、LINEの返信でも打ち返しているかのように操作するふりして店の前で立ち止まった。
そば耳を立てるとかすかに声が聞こえてきた。
『ショウマくんは勉強しているといつも眠ってしまう。だから飼い猫であるステファンを膝の上にのせて机に向かうという対策を取っている』
やっぱり、岡田くんのことだ。
ステファンという三毛猫とテンというモルモットを飼っているのは人づてに聞いていた。
『眠気が差して足がだらんとなるとステファンが膝から落ちないようにもがき、ショウマくんも目を覚ますというわけさ』
その様子が脳内で再生され、そのかわいさに、にやけてしまった。
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