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飼い猫なのにあんなに警戒心が強いなんて。
いや、警戒心が強いからこそ都会の中の「人里離れた」この場所が好きなのかもしれない。
わたしはスマフォを取り出してステファンのお気に入りのこの場所を撮影して、「岡田くんフォルダ」に入れた。
このフォルダには岡田くんにまつわる写真ばかりを集めている。
本人の写真はもちろん、筆箱や傘などの私物、板書された文字、ランドセルと体操着入れを押し込んだロッカー、工作の時間に書いた童話をモチーフにした水彩画の下絵、床の上で大きな模造紙に学級新聞を書いていたときにあやまってつけてしまった上履きの跡、自宅の表札、通っている塾の前に止めた自転車、岡田くんのお母さんがスーパーで買い物をしているときそばを離れたのを見計らって撮ったカートの中身、そして奇跡的な出来事に遭遇した骨董品店の古めかしいラジオ。
わたしが岡田くんを好きなことは仲のいい友達以外には内緒なので、こっそりと撮影するのはなかなか難しいことだった。
こんな妙な写真を撮っていることも知られたくはなかったし。
ステファンの写真を撮り損なったのは残念でならない。
けれども、この不気味なイチョウの写真を見るだけでこの出来事のすべてを思い出せる自信はあった。
ステファンと話をするなら骨董品店のラジオの方がよいだろうか。
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