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ふいに、ぱっと目の前が開けたような気がした。
視界がとってもクリアだ。彩度も明度も上がって、すべてが鮮やかに見える。
カンテラには、おじいさんの物語。
キャンドルには、男の子の物語と、女の子の物語。
目に飛び込んでくるこれらの灯りすべてに、誰かの物語があるのだ。
「なんだか……」
いつの間にか詰めていた息を、ほうっと吐き出した。
私の中のあたたかさと、お店の暖かさが溶け合い、混じり合う。
「きらきら、してますね」
お姉さんはふわりと笑ったまま、何も言わなかった。
「タンポポコーヒー、ごちそうさまでした」そう言って席を立つ。
「ありがとうございました。また来ます」
飲み終わったのは随分前なのに、まだ身体があったかい。
お姉さんは、扉のところまで来て、見送ってくれた。
「こちらこそ、ありがとうございました。灯火堂は日没から開けるから、暗いときになっちゃうけれど、よろしくね。今度は、あなたの灯りの話も聞かせて」
「ともしびどう」覚えておこう。また来るときのために。
「どうして、暗くなってからなんですか?」
「それはもちろん」お姉さんはふわりと微笑んだ。
「暗いところの方が、灯りが綺麗に見えるでしょ?」
腑に落ちた。すとんと納得できる理由だった。確かに、太陽の下でこのランタンを見ても、私は足を止めなかっただろう。
寂れたこの町に灯った、小さな灯り。
小さいけれども、それは確かに温かな灯だった。
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