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「わあ……」
思わずため息を付いた。店内には、それこそ外のランタンとは比べ物にならないほどの光源があった。
パステルカラーにマーブル模様のキャンドルは、机の上や、棚、そこかしこにちょこんと置かれている。
映画に出てきそうな古いランプが壁に吊られて飾られ、天井からは赤や白や緑の提灯が、部屋の隅には行灯がひっそりと置かれている。
キャンドルが散らばって並べられた丸テーブルの真ん中には、三本のろうそくが据えられた燭台が鎮座している。
入ってすぐの左右には、金属製の洋服掛けみたいなホルダーに吊り下げられたカンテラ。
そのどれもが、小さく弱い光を放っていた。店内をぐるりと見回してみて気づいた。
蛍光灯や電灯が、一切ない。
その小さな店の左半分は、展示スペースになっており、向かって右側はカウンター席になっていた。
「コーヒーや軽食も出してるの」と、眼鏡のお姉さんは微笑んで、カウンターの向こうに回った。「どうぞ、座って」
すすめられるままに、脚の長い、すべすべしたスツールに腰掛ける。座面が丸く、インテリアの雑誌で見た北欧家具を思い起こさせるデザインだ。
「こんなお店があるなんて、初めて知りました」
カウンターの後ろの壁には、棚が作りつけられていた。ラベルが綺麗なお酒の瓶や、陶器の容れ物がたくさん並んでいる。品揃えはちょっとした喫茶店みたいだ。
「越してきたのは、つい最近なんだ。半分、趣味でやっているようなものなんだけどね」
お姉さんはやかんにお湯を沸かし始める。やかんなんて、随分久しぶりに見た。家ではもうずっと、電気ポットのお世話になりっぱなしだ。
「タンポポコーヒーは大丈夫?」
初めて聞く名前だ。
「コーヒーは大丈夫ですけど、タンポポコーヒーですか?」
戸惑う私に気づき、お姉さんはそっと目でも問いかけた。
「飲んだことない?」
素直にうなずく。私が普段飲むコーヒーなんて、シアトル系コーヒーのチェーン店でばかりだ。
「それなら、お試し」
そう言って、お姉さんはやかんの中に何かを入れた。
お湯がシュンシュンと沸いていく音を聞いていると、昔、友達と頻繁にここの駄菓子屋へ通っていた頃のことを思い出した。
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