灯火堂

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 このカンテラは、あの駄菓子屋のおじいさんのものなんだけど。  もともとはあっちの山の方に住んでいたんだって。そこで、ご両親と妹と弟、五人で暮らしていたの。でも、おじいさんが十歳になるかならないかの時に、お母さんが病気で亡くなってしまった。  お父さんはそれから、お酒びたりになってしまって、おかげで生活はとても苦しいものになってしまった。  親戚のご夫婦が世話を焼いてくれて、何とか学校は通わせてもらっていたけれど、それでもやっぱり合間に働かないと暮らしていけなかった。  そんなある日のことだったの。山の向こうに夕陽が沈んでいく頃、おじいさんは家に帰ってきた。そしたら、いつもいるはずのお父さんがいない。  妹たちに聞いても知らないと首を振る。  またどこかでお酒を飲んでいるのだろうか? 夜まで待ってみたけれど、お父さんは帰ってこなかった。こんなこと、今まで一度だってなかった。  だって、家にはまだ空いていない酒瓶があるのに!  おじいさんは、二人に留守番させて、家にあったカンテラに火を灯して、お父さんを探しに出かけた。もしかしたら、どこかで怪我をしたり具合が悪くなっていて助けを呼べないのかもしれない。  家の周囲をぐるりと回って、道に沿って畑や田んぼの方まで行ったけれど見つからない。呼んでみても返事もない。  しかたなく戻ってきたおじいさんは、ふと考えて裏山に入ることにした。まさかとは思ったけれど、一応、ね。夜の山だから、月の光も頼りない。頼れるのはこのカンテラだけ。  二十分も歩き回った頃、何かおかしな音が聞こえてきた。地の底から響くような、岩を割るような、だけど獣の鳴き声とは違う。  おじいさんはカンテラだけ持って、おそるおそる音の方に近づいていった。音はだんだん大きくなる。  何か、いや、誰かがいる。あの大きな木の根本に。まさか、この音は? カンテラでそうっと照らしてみた。  そう、大木の下でお父さんが寝ていたの! それも大きないびきをかきながら!  呆れてそのまま帰ってしまいたくなるところだけど、おじいさんはただただほっとして、「お父さんが無事でよかった」って。  責めもせずに、寝ていたお父さんを起こして、家に連れ帰ったんですって。    その時のカンテラがこれなんだ。
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