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「まるでおとぎ話ですね」
本当にあったこととは思えない。
「そう。歴史上の偉人か、フィクションのことみたい。でも、あの駄菓子屋のおじいさんの話なんだよね」
「おじいさんは、聖人だったのかもしれないですね」
しみじみとタンポポコーヒーを飲み干すと、お姉さんも一口飲んだ。
「ふふ、ありうるね」
マグカップの底に、タンポポコーヒーのシミが円くついていた。あんなにたくさん入っていたのに、もう飲み終えてしまった。
「あ、これ、お代は……」
何も気にせずに飲んでしまっていたけれど、いくらなのだろう。
「いいよいいよ。カンテラの話を聞いてもらったお礼」
お姉さんはひらひらと手を振った。
「気になるなら、また来て。この灯り一つ一つに、たくさんの話があるんだ。語りきれないほど、たくさんね」
例えばね、とお姉さんはカウンターにちょこんと飾られているキャンドルを指した。
「そのキャンドルは、他のと比べてちょっと不格好でしょ。それは、キャンドル職人を目指した男の子が、初めて作ったキャンドル。そして、その男の子を好きになった女の子が、一番大好きなキャンドル」
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