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その奇妙な店は、店主が宇宙人なのだという。
お気に入りの小料理屋で、他に客がいない時だけそっと私に正体をうちあけることを除けばいたって普通の店、自称宇宙人の店主もどう見ても普通の人間だ。
100歩譲って宇宙人が実在するとして、タコ型とまでいかなくても、違う惑星の環境で育った生物が地球人と同じ姿をしているとは思わないのが自然だろう。すると店主はニヤリと笑い
「宇宙の歴史は長いんですよ。いくつもの種族が恒星間を移動できる文明を持ち、接触し、宇宙の覇者となった種族が全域に勢力を拡大したんです。地球上どこへ行っても基本的に同じ形をした人間がいるのと同じ理屈ですよ」
「しかし、地球人は類人猿から進化したことがわかっているじゃないか。大将の理屈なら、はじめから今の人間が住み着いていたことになる」
「お客さん、それはね」口角を吊り上げ、不気味にクククと笑いながら店主は続けた
「ここが元々私たちの住む場所として選ばれたんじゃないからだ。適当な星に遺伝子操作で作った類人猿を育てて、人間になりきる前に収穫すれば奴隷として売買していいことになってるんです」
ますますよくわからない話になってきた。現に、地球にいるわれわれは人間だ。
「収穫時期を逃した果実みたいなもんでね、育ちすぎて売買できる基準を超えちまった。かといって処分するのも法に触れるから、勝手に滅びてリセットされるのをこうして待っているのさ。一時期いいところまでいったんだがね」
全面核戦争の危機があった時代のことを言ってるのだろうか。だんだん、店主が宇宙人に見えてきた。
「でもね、私もここが好きになっちまいましてね、あ、いらっしゃーい」
他の客が入ってきた。店主はいつもの穏やかな感じに戻っている。どこまでほんとの話なのか、本当なら世界をどうするつもりなのか、気になってまたこの奇妙な店に足を運ぶことになるのだろう。
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