私と日向君

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「大変なんだね、日向君も」  私がしみじみ呟くと、 「……春は地獄だよね」  彼氏どのはゲンナリとしている。  やっぱり、日光よりもスギ花粉の方が怖いらしい。  公害さながらに日本の植林事情から発生した副産物は、現代の吸血鬼の天敵となっている。  私、午空瞳は申し訳ないことに苦しみを分かち合うことができない――アレルギー症状とは無縁に生きている人間だからだ。 ごめんなさい、彼氏どの。 「まず、鼻がやられると飯を食うのに支障がでる。 しかも油断すると目が充血してくるし、痒くなって涙が止まらなくなる……日焼け止めもメーカー間違えるとべたついて花粉の接着剤かって具合になるし。 粘膜を傷めると鼻血が出やすくなるんだけど、テスト中にあたった時が退席できなくてもう辛かったわ」 「……う、うん」 「耳鼻科に行っても、1回じゃ治療がすまないことが結構あるんだよ。花粉シーズンなんか予約入れても込み合うから、バイトのスケジュールにもたまに影響でるしさ……。でも、客の前で鼻血噴いたら悲惨なんてもんじゃ済まないじゃん」  日向君は、切実な声色で語ってくる。 マジメに接客に取り組んでいる姿勢は素晴らしいと思うのだけど、吸血鬼が耳鼻科に通ってるのは絵面としてシュールすぎると分かっているのだろうか。 相談内容が自分の鼻血というのが、より一層。 「薬とかは使えないの?」 「亜人用を想定してないから、新しいやつは使うなって厚生労働相から注意されてるんだ。たまに無視して飲んでやりたくなるけどね」  日向君の目は本気であった。 先祖代々アレルギー体質な吸血鬼が、処方薬で事故をおこさないか国は心配してくれているのに、有難迷惑に思っているご様子。 吸血鬼の存亡を憂いる人々は、私の他にもいるみたいだ。 「あの時期はティッシュの消費に金かかるんだよねえ……、中学でトイレットペーパーを盗んでったバカもでたぐらいだ」  深くため息をついた彼に、私は呟く。 「それって、血を飲んだら改善とかしないの?」  パワーアップ的な感じでさ。
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