私と日向君

4/15
前へ
/15ページ
次へ
 逃がすものかと貪るように舌を絡められて。息つくひまもない未知の感覚に腰が抜けそうになると、力強く男らしい腕で抱え込まれて――。  ――その現場を目撃した運動部の女友達によって、彼は思いっきりぶん殴られ教卓におでこを強打した。  クラスメイトの女子たちが、痛みによろめいた日向君に空き缶やペットボトル、上履きをぶつけた。いくらイケメンでも、この変態は女の敵だと認定されたのだ。  そんな中でも一番にキレていたのは品行方正な学級委員長さんで、彼女は教室の本棚にあった広辞苑を片手に振りかぶろうとしていた。 見事な砲丸投げの構えに、蒼白になった日向君のダチが慌てて止めようとし……、といった大混乱があったらしいけれど、私はそのようなことを冷静に眺められるような心境じゃなかった。  ファーストキスの味は玉ねぎと醤油風味だったというショックに、涙目の私は空タッパーをかかえて体育座りになっていたからだ……。  ちょっと哀しくなるのは、そのド変態が私の現在の彼氏になっているということ。  学年中の女子が、日向君が私に迫るのを阻止しようとしたのだけど(女子は彼を盛りの付いた変態と呼んでいた)、最終的には壁ドンにOKしてしまったのだ。 その間、二週間。 「いくらモテないからって、午空さんは押しに弱すぎないか……」と煙草を咥えた不良の方々までもが同情してくれたらしい。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加