第四章――――過去と今

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「……名簿を調べさせたのは、実紗希と河嶋先生を接触させるためだ。まぁ、さすがに河嶋先生が忌引きで休みだったってのは予想外だったようだが……。優月の名前を忘れたふりをしていたのは、名簿を探させる必然性を持たせるためと、河嶋先生に優月のことを説明させるためってところか。実紗希が河嶋先生から十三年前の事件について聞けば、必ずその真相を探ろうとすると踏んでいたんだろう? 実際、その通りだったよ。あいつは、あんたを苦しめる呪縛を解いてやろうと一生懸命だった。河嶋先生が真相に気づいているだろうということも予測していたあんたは、彼が罪悪感から実紗希へヒントを与えることもわかっていた。そうなれば、十中八九、実紗希は事件の真実に辿り着く。……それこそがあんたの目的だった。違うか?」  椿姫は諦めたように小さく肩をすくめる。 「…………正解」 「ッ……!」  伸司は拳を強く握りしめながら、深くため息をついた。 「……残念だよ。あんたに否定してほしかった。俺の推理なんて間違ってるって、鼻で笑い飛ばしてほしかったんだけどな……」 「あなただって、同じことを感じたはずよ。……そっくりでしょう? 彼女と……」 「……ああ。たしかに似ている。実紗希と……優月は」  風貌もどことなく近いところはあるが、それよりも、その纏う雰囲気がそっくりなのだ。生まれる時代がもう少しずれていれば、生まれ変わりと言われても信じてしまったかもしれない。 「実紗希は……私の従兄弟の娘なの。だから、二人が似ているのは全くの偶然。あの子が五歳の頃、車の交通事故で両親が亡くなって……私の家で引き取ることになったわ。引き取るといっても、あの子は小さい頃から心臓が弱くてずっと病院暮らしだったから、一緒に暮らしていたわけじゃないんだけどね。見舞いを兼ねてちょくちょく病院へ会いに行ってた私が、一番あの子と仲が良かった。親代わり、とでも言うのかしらね。あの子は大きくなるにつれて優月に似てきて……私はあの子の顔を見るたびに優月のことを思い出してしまうようになったわ」  椿姫は悲しげな表情で話し続ける。
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