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「そして今年、実紗希は高校に通い出した。一人暮らしだった私と一緒に住みながらね。学校に通うのは初めてのことだったけど、あの子勉強はできたからその点は心配してなかったわ。……実紗希がかつての私たちと同じ高校に通うようになって、いよいよ私は優月のことばかり考えるようになってしまって……でも、それじゃいけないと思った。だから私は、優月に会おうとした。会って何もかも話して……そして謝って、十三年前のケリをつけようと思ったの」
「……優月の居場所を知っていたのか?」
「私、総合病院に勤めてるのよ、心臓外科医として」
「心臓……じゃあ、実紗希のことも?」
「ええ、今は私が担当医。大きな病院だから……色んな人が来るのよ。そして前に一度……優月のことも見かけたわ。まさかこっちに戻ってきているなんて思わなかったから、私は驚いて、声をかけることもできなかった。後で調べたら、優月は何度かうちの病院に来ているとわかったわ。たまに風邪の薬をもらいに来ていただけだったみたいだけどね。そのとき彼女の問診票を見て住所を知った……知ってはいたけど、会いに行く勇気が持てなくて……ずっとそのままになってた」
「あんたは実紗希の高校進学をきっかけに、ようやく会う決心をした……」
椿姫は静かに頷く。そして、悲哀に満ちた声を上げた。
「でも……遅かった……! 私がやっと……また会う勇気を持てたときには、あの子はもう……っ!」
電車の人身事故は基本的に被害者の名前が公表されることはない。椿姫が優月の死を知らなかったのも当然だ。
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