第四章――――過去と今

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 ……なんて、やりきれない事件だろう。優月が善意で起こした行動が椿姫を長年苦しめ、その過去が、実紗希にまでつらい思いをさせる結末を生んでしまった。些細なすれ違いの連続が連鎖的に悲劇を起こしてしまったのだ。過去に正しいも間違いもないが、ほんの少しの違いでこの悲劇は回避できたのかもしれない。もしも優月が生きていたら、こんなことには……。 「……?」  伸司はふと椿姫の後ろを見て、美術室のドアに付いたガラスに、人影が映っていることに気がついた。  ……まさか! 伸司は飛び出すように動いて、そのドアを開いた。 「あっ……」  ドアのすぐ外に立っていたのは、実紗希だった。しまった、迂闊だった……! こんなに早く保健室から戻ってくるなんて……。 「……聞いていたのか?」 「…………」  実紗希はゆっくりと頷く。そして伸司の後ろの椿姫へ向かって言った。 「お姉ちゃん……。さっき先生としてた話……嘘だよね?」 「あ……」 「最初から全部わかってたなんて、嘘だよね……? あたしが優月さんの代わりだったなんて……嘘、だよね」 「あ……ああ……」  椿姫は狼狽するばかりで、実紗希の問いに答えられない。それを見た実紗希は、大粒の涙を流して、廊下の向こう側へ駆け出していってしまった。 「実紗希! ……お、おい! あんた、追わなくていいのかよ!?」  椿姫は憔悴した様子で言う。 「私には……あの子を追いかける資格なんてない」 「……じゃあ、誰があの子を追いかけてやるんだよ」 「…………」 「……くそっ。今回限りだぞ」  こういうのは柄じゃないってのに……。
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