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美術室を出る前に、伸司は椿姫へ向かって言った。
「その前に……俺からあんたに言っておくことがある。……優月からの伝言だ」
「え……?」
「あいつ、一度だけ話してくれたことがあるんだよ。事故に遭う一週間くらい前だった。……高校時代に絵がすごく上手い子と親友で、その子に自分をモデルに絵を描いてもらったことが、学生時代一番の思い出だってあいつは言ってた。その友達って、あんたのことだろ?」
「優月が……そんなことを?」
「その友達とは悲しい別れ方をしてしまった。もう会うことはないかもしれないけど、もしもまた会うことができたのなら……そのときには、昔と同じように楽しく話をして、また絵を描いてもらいたいって言ってたよ。……わかるだろ? あいつは、あんたに謝ってほしいなんてちっとも思ってなかったはずだぜ」
「あ……あぁ……そんな……」
椿姫は決壊したように慟哭する。
「優月……私はもう……絵なんて描けないよ……」
椿姫はとうとう床に座り込んでしまった。
「……じゃあ、俺はあいつを捜してくる。あんたはその間に、よく考えとけ。戻ってきたあの子に、なんて言うのかを……。あんたが本当にあの子のことを愛しているなら、だけどな」
伸司が美術室を出ようとすると、
「待って……」
椿姫に呼び止められた。
「あの子のことで……私、一つだけ嘘をついていて……」
「……そんなもん、とっくにわかってるよ」
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