第四章――――過去と今

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「なんだ、俺が気づいてないとでも思ったのか? わかってたよ、遠山実紗希は本名じゃないってね。昨日のお前の様子がなんとなく気になって、一年生の名簿を全員分確認してみたんだが、遠山実紗希なんて名前のヤツはいなかった」 「なーんだ……バレてたんだね」 「俺のことを先生だと勘違いしたお前は、つい嘘の名前を言ってしまった。屋上に忍び込んでいたことを後で担任の先生に報告されたら、叱られてしまう。その場を偽名で切り抜けて、後は知らんぷりするつもりだったんだろう。でも、俺が予想外に協力的だったもんだから、本当の名前を言い出せなくなってしまった。違うか?」 「あはは……正解。咄嗟に嘘ついちゃった。実紗希っていうのは、お母さんの名前。……あたしはお母さんのこと、もうよく覚えてないんだけどね」 「そのことは、お前の姉ちゃんとも口裏を合わせ済みだったんだな。さっき聞いてきたよ。さぁ……そろそろ、本当の名前で呼ばせてくれるよな?」  伸司は初めて、その名前を口にする。 「なぁ――美夜子?」
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