174人が本棚に入れています
本棚に追加
「へへっ、そんだけ泣けりゃ上等だ。……ん?」
伸司は屋上の入り口に、椿姫が立っているのを見つける。
「おい。お前の姉ちゃん、来てるぞ」
伝えると、美夜子は肩越しに椿姫のほうを見た。
「お姉ちゃん……」
「美夜子……あの……私……」
椿姫は意を決したように言った。
「ごめんなさい……! 私……鳥居さんに言われてやっと気がついたの! あんなことをして、あなたの気持ちがどうなるか、何にも考えてなかった……! もう二度と、さっきのような気持ちにはさせないから! あなたは優月の代わりじゃない! 私の一番大切な……妹だと思ってるの! だから……だから、ごめんなさい……許して……!」
雨に濡れるのも構わず椿姫は叫ぶ。美夜子は、まだ迷っているようだった。……仕方ない。今回だけ、手伝ってやるか……。
「美夜子。よく思い出してみろよ。あの姉ちゃんは、お前が小さい頃から面倒見てくれてたんだろ? それが全部、偽りの愛情だったと思うのか? お前のことを優月の代わりとしてしか見ていなかったと……本当に、そう思うのか?」
美夜子はゆっくり首を、横に振る。
「じゃあ、行ってやれよ」
伸司は美夜子の背を軽く押す。美夜子は力強く頷いてから、椿姫のもとへ駆け寄っていった。二人は抱き合って、またわんわんと泣いている。伸司は濡れた前髪を払って、呟いた。
「まったく……世話が焼けるぜ」
最初のコメントを投稿しよう!