第四章――――過去と今

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 伸司は煙草の煙を吐きつつ答える。 「理事長の孫が最近部活を休んでるらしくてな。家への帰りも遅いから調べてくれって言われてたんだ。ま、なんてことはない。そいつは部活を休んでできた時間を使って、近くである彫刻展の設営手伝いをしていたってだけだった」 「あれ……彫刻展? その人って、もしかして美術部の園崎って人?」 「ああそうだよ。なんだ、知り合いだったのか?」 「うん、ちょっとね。……でも、美術部って聞くと半年前のこと思い出すよね。河嶋先生、元気にしてるのかな?」 「夏で退職したんだっけか。ま、今頃はのんびりしてるんじゃねぇかな」  「そうだといいね」と返して、美夜子はフェンスのほうへ歩いていく。美夜子はフェンス越しに夕日を眺めて言った。 「半年前に、センセーと初めて会ったときもこんな感じだったよね。校舎は向こうのほうだったけど」 「ああ。俺が声かけたら、いきなり逃げちまったんだよな」 「あはは、あの時は驚いちゃったから。次の日も同じようにセンセーは来て、そこでやっとちゃんと会話できたんだよね。……そういえばあたし、あの時『夕日は嫌い』って言ったの、覚えてる?」 「ああ、そういやそんなこと言ってたな。あの時は訊かなかったけど、なんで夕日が嫌いなんだ?」 「……夕日って、もうすぐ沈んじゃうものでしょ? だからどうしても、その……死を連想しちゃうっていうか……暗い気分になっちゃってたんだよね」  彼女の境遇からすれば、夕日をそのようなシンボルとして見てしまうのも仕方がないことかもしれない。
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