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「それにしてもさ、センセー……」
美夜子は伸司に向き合うと、伸司の首元を見て吹き出すように笑う。
「ネクタイきちんと締めると、ちっとも似合わないね?」
「そ、そうかぁ?」
伸司はコートの下に着ているワイシャツに、ネクタイをしっかりと締めていた。いつもはネクタイを付けるにもとりあえず首にかけておく程度なのだが、一応先生としてここにいるわけだから、ちゃんとしたほうがいいのかと思ったのだ。しかし……そうか、似合ってないか……。
「……んふふ、ちょっと近くで見せて?」
美夜子は何か企んだような笑いを浮かべながら伸司に近寄って、ネクタイの先端を手に取る。
――伸司はいきなりネクタイを引っ張られて、頭を下げた。
「おっ――?」
頭の下がったところへ、左頬に、温かく柔らかな感触が一瞬――。美夜子は少しだけ顔を赤く染め、離れていく。
「じゃ、また明日ねセンセー!」
手を振って、美夜子は屋上から出ていった。
伸司はしばらく立ち尽くしていたが、やがて頭を掻きつつ、苦笑して言った。
「……子どもは恐ろしいな」
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