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しかし、
しばらくしても、
サチがまったく席に戻ってこない。
その間に、
料理が運ばれてきた。
『あなた、私、
ちょっと様子をみてくるわ。』
母親はそう言うと、
料理には一切手をつけず、
女性用トイレへと向かった。
しかし、
サチの姿はどこにもなかった。
急いで夫に伝えに行こうとしたところ、
夫も心配して、
トイレの側まで来ていた。
『あなた、もしかして、
誘拐されたのかしら・・・。』
心配でたまらないという声で、
母親は夫に言った。
すでに少し、涙ぐんでいる。
夫は、きっとどこか近くにいると言い、
とにかく、店員に報告することにした。
『娘が、行方不明なんです!』
母親はパニックになっており、
とっさに出てきた言葉が、
“迷子”ではなく、
“行方不明”だった。
父親が落ち着いて事情を話すと、
店員はカスタマーサービスセンターに連絡し、
元の席に戻ってしばらく待つように指示した。
しかしそうもしておられず、
二人は、申し訳ないからと、
まだ食べてもいない食事の代金を、
店員が断るのを無視してレジに置き、
サチを探しに向かった。
服屋、本屋など、
サチが好きそうな場所を、
全部見てまわったが、
みつからない。
『2階を探そう!』
父親がそう言い、
母親は首を大きく縦に振って、
うなずいた。
エスカレーターは、
乗っている人が多いので、
二人は階段を使い、
2階へ向かった。
ピンポンパンポーーーーーーーーーン
二人が2階へついた頃、
館内放送のアナウンス音が流れた。
『お客様のお呼び出しを申し上げます。
2階、おもちゃ売り場にて、
迷子の女の子をお預かりしています。
ピンクのワンピースを着ており・・・』
アナウンスを最後まで聞くまでもなく、
二人は、きっとサチだと思った。
普段、
特別なことでもない限り、
おもちゃを欲しがらないサチが、
なぜそんなところにいるのか、
不思議に思ったが、
そんなことは、
今はどうでもよかった。
しかし、
アナウンス係が言った次の一言が、
二人はどうしても腑に落ちなかった。
『なお、お預かりさせて頂いております女の子は、
お母様へのプレゼントを持っておられます。』
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