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それは、くしゃくしゃになった、
一枚の画用紙で、
色鉛筆で描いた母親の似顔絵に、
覚えたての漢字を使って、
『お母さん、おたん生日おめでとう』
という言葉が添えられていた。
さらにその店員によると、
サチは母親への誕生日プレゼントに、
なにかもうひとつ用意したかったようで、
貯めたお小遣いを持って、
おもちゃ売り場に買いに来たのだそうだ。
自分の誕生日に連れて来てもらったときに、
楽しいおもちゃがたくさん売られているのを見て、
ここで買おうと思ったらしい。
サチが選んだのは糸電話のようなおもちゃで、
600円のものだったのだが、
サチが持っていたのは465円しかなく、
買うのは無理だと言われ、
それを聞いて泣きだしたということだった。
『どうして電話のおもちゃをくれようとしたの?』
母親が問いかけると、
サチはこう答えた。
『だってね、
おかあさんいつも、
しらない人とデンワでおはなししてるでしょ?
サチもね、おかあさんとね、
いっぱい、おはなししたかったの。』
母親は、
娘と同じ背丈までしゃがみ込み、
頭をなでて、涙をためながら、
優しく抱きしめた。
おわり
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