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その奇妙な店は、裏路地のさらに裏道を進んだ、猫の額ほどの土地に立っていた。そっけなく「いらっしゃい」と書かれた暖簾は居場所を失ったように俯き加減に揺れている。
その横で小さな看板が揺れている。
「何でも相談屋」
頼りない細い字に僕は早くも後悔していた。ため息をつく。だがすぐに気を入れなおして、暖簾をかき分けた。
『らっしゃい』
姿の見えぬのに人の声がする。初めは店の奥からと思った。
『にゃにようだい? さっさと話して、出て行きな。寝てられない』
それにしては近くすぎる。僕は声のほうを向いた。白猫が欠伸し、僕の元へ近づいてきた。
「猫が・・・・・・話した?」
『話して悪かったかえ? こちとら、あんたよりゃ、長生きしとんだよ』
言い返せない。納得したくなくとも、目の前の猫は人間の言葉を話している。僕はまじまじと猫を見つめ、まあいいからと口に出すと、白い毛むくじゃらを膝に抱き上げて少しづつ話した。
親との関係。そっけなくしてしまうこと。変わりたい自分・・・・・・
誰かに話したかった。ただそれだけかもしれない。語り尽くした途端に眠たくなった。
『寝ればよい。よい夢を』
朝起きたら、自宅だった。昨日の店は夢か現か。ただ、確かなのは二度と行けられないこと、ただそれだけだ。
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