求めていた温もり

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その記憶の影響なのか。 風呂からあがって部屋に戻ると先程までいたリョウの姿がないことに、大きな寂しさを覚えた。 まあ、そりゃ帰るか。 こんな時間だし。 リョウがここに残る理由もない。 心の中でそう自分に言い聞かせていると、玄関のドアが開閉する音と、 「ただいまー……。お邪魔します。」 と言う声が聞こえる。 帰ったと思った相手が、今の俺にとって一番近い存在である人が、 自分のもとに「ただいま」と言って戻ってきた。 リョウにとってはただの言い間違いだったかもしれないが、俺にとってはこれ以上ない温かさだと思った。 「リョウ。」 「ん?」 「さっきの、もう一回言ってよ。」 「さっきの…?」 「うちに入ってくる時、言ってただろ?」 「お邪魔します?」 「そっちじゃない。」 「…ただいま。」 「ん。おかえり。」 たったの四文字で、こんなにも心地良い幸せを与えてくれるリョウが愛しくてたまらなくなり、思わず腕を引いて抱き締めた。
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