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ふと…
夜に、目を覚ますと…
「…うん。このフォアグラは、なかなかに美味いなぁ。まあ、この味には赤ワインが合うんだろうけど…個人的にはロゼでも良いかな」
という、弟の寝言が聞こえてきた。
弟のヤツめ…。
夢の中でも美味しい物を食べてやがるな…。
僕は、ニヤニヤしながら弟の寝顔を見た。
フォアグラは確かに美味い。
しかし、その味にも『レベル』が有って、美味いのも有れば、それ程でもないのだって有ると思う。
ご存知の通り、フォアグラは、カモやガチョウに高カロリーの餌を与え続け、その結果、肥大した肝臓…脂肪肝を摘出した物で世界三大珍味と呼ばれる高級食材だ。
何とも残酷な生産方法だが、人間の食への探求というのは本当に天井知らず、尽きる事が無い。
かく言う、僕達兄弟も食への探求には心血を注ぐ美食兄弟と言うべきであろう。
僕達は、ある資産家の裕福な家庭に産まれた。
しかし、お袋は僕達が物心付くと同時に亡くなり、ほとんど親父に育てられた。
と、言っても親父は、ある巨大企業の社長。
仕事の関係であちこち飛び回り、ほとんど家にいなかった。
(家にいたのは、せいぜい月に数回くらいだ)
だから、家には住み込みの家政婦さんがいて、僕達はその家政婦さんのお世話を受けながら育った。
そして、毎日、家には和洋中、様々なジャンルのコックさんや板前さんやパテシエさんが入れ替わり立ち替わりやって来て、僕達の毎日の食事はその人達が作った料理だった。
たまに友達を家に招いて一緒に食事をすると皆、決まって
「物凄く美味しい!こんな美味しい料理を食べたのは生まれて初めて!」
と感嘆の声をあげる。
僕達にとっては、これが『日常の味』なんだけど。
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