新しき物理時代

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新しき物理時代

「この新しき物理時代の幕開けから数十年経ち、結果として物理分野は驚異的な進化を遂げました。神の粒子であるヒッグス粒子を利用した技術は様々な国、地域で獲得されつつあります。  教科書の28ページを見てください」 太陽が天高く昇り始めようとしている午前。 2年A組の今日の物理はヒッグス粒子についての授業で、今もっとも物理分野で注目されている内容だ。そういう訳もあってか、物理の女性教師の神崎先生(かんざき)の言葉にはいつもより熱が入っている。 「せんせー、教科書わすれましたー」 一人の生徒が力の抜けた声で言う。 「仕方がないね。隣の子に土下座して見せてもらいなさい」 その生徒に対し軽い冗談を乗せて颯爽な言葉遣いで返答をする先生。 「せんせー、俺も持ってねえ」 「つーか、教科書使った授業なんて時代遅れじゃね?」 「そうそう、他の授業は教科書じゃなくて全部タブレットじゃんか」 「せんせーの物理の授業だけ教科書なんておかしいんじゃないんですかー?」 「紙媒体の授業なんて古すぎるよ、タブレット導入しようぜー。  リストバンドと連携して情報共有できるし」 あちらこちらから野次が飛び、教室はざわめき轟く空間へと変貌した。 大抵の高校の先生ならこの状況は怒鳴りつけるものだが、この神崎先生は一味違っていた。 「あなた達に言っておくけど、私の言いたいことは3つ。  一つ、私は去年まで裏社会で生きてきた。  二つ、この授業にタブレットを導入できない正当な理由がある。  三つ、次に文句を言った奴はブチ殺す。以上。」 怒っている表情でもないのに、この空間を威圧するようなオーラ。 神崎先生が女王で、生徒がその僕のような上下関係。完全にこの教室を支配している巨大な力。 考えれば考えるほど、不気味な先生であった。
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