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完全に乾いたわけではないが、袖を通せるくらいにはなったシャツを羽織り、静かに部屋を出ようとする。
「ここのお金は払っておくから、後は君の好きなタイミングで出るといい」
私は彼女へ視線をやる事なく、扉に向かって話しかけた。
これでいい、私に出来るのはここまでだ。
彼女が望んでいない以上、深入りするわけにもいかない。
腹立たしさも収まり、寂しさを感じながらも私は扉をゆっくり押した。
その時だった。
ガタッ…
物音に反応し振り返ると、そこには手を伸ばす彼女の姿があった。
分からない…
私にはこれ以上、何も求めていないのではなかったのか?
相変わらずその目に宿るのは、悲しみと不安の色。
ただ、その手を放っておく事が出来なかった。
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