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「おっと、つい研究に熱中してしまった。もうおやすみの時間だな」 時計の針は深夜の二時を指していた。ここは博士の自宅兼研究室である。博士はその日の仕事を切り上げ、寝室へ行こうとしたところへ、研究室に来客を知らせるインターフォンが鳴った。 「一体こんな時間に誰だ」 博士が研究室のドアを開けた途端、突然来訪者が室内に飛び込んできた。来訪者は懐から取り出した刃物をちらつかせ博士に言う。 「これを見れば私の目的はわかりますね。私も手荒な事はしたくない。どうかお静かにお願いしますよ」 「なるほど、強盗か…。しかし残念だったね、ここに金目の物は何もない。さっさと帰りたまえ」 「嘘は自分の為になりませんよ。あなたが最近、とてつもない発明をしたと噂で聞きました。それ程の発明品なら大金をはたいても欲しがる人はいる。隠さずによこしなさい」 「ただの噂だ。そんな物はない」 「まだ言うか」 そのような問答がしばらく続き、これ以上騒ぎが大きくなるのを恐れ、根負けした強盗は、 「強情な奴だ。仕方ない、今日のところは引き上げるが、私もこのまま帰る訳にはいかない。せめて何か…」 と、室内を見渡し、机の横に置かれたアタッシュケースを発見した。 「何だあれは?」 「おい、よせ!! それは…」 制止する博士に構わず、強盗はアタッシュケースに近づき、中を確認すると、なんとぎっしり札束が詰まっている。強盗は思わず笑みをこぼし言った。 「この嘘つきめ、何が金目の物はないだ。こいつを貰って行きますよ」 「頼む!! それがないと困るんだ!! 返してくれ!!」 「知った事か。じゃあな」 強盗は大金の入ったアタッシュケースを持って研究室を出て行き、後に残された博士は満足げに呟いた。 「どうやらうまくいったようだ。私の開発した特殊な催眠ガスは、強欲な人間が吸い込むと、頭に思い描いた事が幻覚として見える。あの強盗には、紙くずの入ったゴミ箱が大金の入ったアタッシュケースにでも見えたらしい。万一の事を考え、ガスをこの部屋に充満させておいて良かった」 そして博士は、部屋の隅に向かい、 「怖い思いをさせてしまったね。もう大丈夫だよ」 と、博士の目には美しい女性に見えている催眠ガス発生装置を優しく抱き締めた。image=502473983.jpg
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