私と日向君

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 自転車にキーを挿して、押しながら駆け出す。ひらりと身軽に乗ると、暗い街中を走った。  一番星はとっくに昇り、月は細いシルエットで先を尖らせる。 白っぽい電灯には虫が惹かれて、夜会の真っ最中。帰宅するサラリーマンは俯きがちに、せっせと脚を動かす。  そんなしみったれた街の寂れた道場に自転車で辿りつくと、そこはもう電気が点いていた。 大人だけの社会体育というわけではない。ここは子どもだっていつでも募集中だ。 まあ、『募集中』ということは、常に道場には存在しないということでもあるのだけど。 引き戸を静かに開けると、履き古された靴が下駄箱に並んでいるのが目に映る。もうみんな来ているのだ。 「こんにちはー」  挨拶をしながら入ると、畳の上に転がった男の人が見えた。 痛そうに呻いている彼ら(なんと複数なのだ!)に驚きながらもひょっこり顔を覗かせると、その中心で畳みに着地した身長の高い女性の姿が目に飛び込んできた。  25歳くらいだろうか。 手を打ち払い、胸の膨らみはないけれど、凛とした佇まいをして背筋を伸ばしている。涼やかな濃紺の眼差しに、黒の髪は首の後ろで一本にまとめていた。 なんて格好いいんだろう。思わず見惚れてしまうと、美貌の彼女はこちらに気が付いてつい、と視線を動かした。 「やあ、瞳ちゃん」  手を振られ、私が微笑む。 「えへへ、マコさん」
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