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「……まさか、覚えてないの?」
「クラスメイトだということは今聞きました!」
パニックに陥った私が白状すると、日向君の目が暗く陰る。
「……それだけ?」
「……え」
「ねえ、それだけ?」
おっかない表情で詰問された私は、何か不穏なものを感じて後ろに後ずさりしようとした。しかし、友達二人に腕を掴まれている状態では、逃げようがない。
緊急警報。警戒、警戒。
無造作に寝ているライオンの尻尾を踏みまくったらしい私の顔色が青ざめると、日向君は虚ろな笑い声を上げた。
「まあ、いいや」
「そ、そうですか」
「君にその気がなくても、後で無理やり同意させればいいことだから、今は許してあげることにしよう」
言っている内容とは裏腹に、すごく怒ってることが伝わってきた。
とりあえず日向君の機嫌を悪くしたことだけは理解できたので、私は意味の分からないその言葉にガクガク頷いた。
「午空さん、僕はね、君に頼み事があって来たんだ」
凍てつく北風のような微笑をした彼は、ゆっくりとこちらの姿勢に合わせる感じで腰を屈め、目と目を合わせた状態で口を開いた。
「……僕に、もつ煮を作ってもらえないかな」
全力疾走をした直後みたいにドクドク言っていた心臓を持て余していた私が、呆気にとられて口をポカンと開けた。
「……はい?」
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