私ともつ煮中毒者

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 聞き間違いだろうか。今、何かすごく妙なことを言われた気がする。 怪訝な表情になった私に対し、どこまでも真剣そのものな日向君は、べらべらとこうまくしたてた。 「もつ煮だよ、MOTUNI! 君、クラスで得意料理だって話していただろ? まさか、それまでも忘れたとかいうつもりかい?」 「いや……まあ、覚えてはいますけど」  それがこの状況とどう関係があるというのか。だんだん嫌な予感がしてきた私が引きつった笑みを浮かべると、日向君はうっとりとした瞳で熱のこもった語りを始めた。 「君、もつ煮って最高の料理だと思わない? これまで日本人が捨ててきた動物の内臓という部位を巧みに昇華させた時代のニューエイジ! ブラッドソーセージしかり、西洋では臓物料理ってのは珍しくないんだけど、それとはまったく別ルートで進化したというのは信じがたいよ! ああ、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮、もつ煮! ハァ~、ハァ、ハァ、言葉にするだけで美しい! 素敵! 僕を抱いて!」 「――変態だァ!」  思わず私は叫んだ。 朱莉と桂子は、日向君の見せた本性に一歩引いた。どっからどう考えても、日向君は私に別種の告白をしていた。そう……、 ……彼は生粋の『もつ煮ジャンキー』だという、魂の奥底からの告白である。
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