私と日向君

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「……うわ、」  これ、かなり重いかも。 放課後。グラグラと揺れる本の山を先生に押し付けられた私たちが廊下で苦労しているというのに、周りの学生はそんなことお構いなしで冷たく通り過ぎていく。 「ちょっと誰か手伝おうとか思わないのかよ……」  男言葉で嘆いているのは、私の親友の朱莉。ポニーテールにスッとした吊り目の器量よし。 「全く、重くてたまんないったら。ウチみたいな可愛いギャルが苦労してるってのに、薄情!」  バサバサの茶髪に、目元を黒々と囲ってメイクした桂子がぶつくさ文句を云う。 それに愛想笑いを返した私が、ふらつく千鳥足みたいになりながらも教科書を抱えて、資料室を目指す。  おも……、重……っ 顔を引きつらせながら、前が見えない状態で歩いていると、案の定見知らぬ誰かにぶつかってスッ転んでしまった。血の気が引く。素行の悪い不良だったらどうしよう。  あわあわしながら教科書を拾っていると、ブレザーとネクタイが見える。細身で身長の高い男子だ。 「……大丈夫? 午空さん」  相手から澄んだ声を掛けられ、私は焦りながらも頷く。 怒らせたかな。キレられるかな……。パニックになっている私をよそに、名前も覚えていない男子はテキパキと教科書を拾い集めると、なんと親切にもそれを半分以上持ってくれたのだ。 「え……、ちょっと! いいんですか!?」 「いいよ。気にしないで」  サラサラとした黒髪が印象的な男子の見目は、普通以上に整った美形だった。ジブリの映画に出てきた動く城の主であるハウルみたい。 紳士的に微笑んだ彼が、資料室の方を見て目配せをする。それを見た朱莉と桂子が目を丸くした。 「そっちの教科書も寄越して、どうせなら全部持ってくよ。女の子の持てる量じゃないもんな」  そう言った通りすがりのイケメンさんは、辺りにいた男の子を集めると私たちの抱えていた教科書を全部負担してくれた。 なんて親切な人だろう。感動しているこちらを廊下に置き去りにして、彼はあくまでも爽やかに去っていく。呆然としていた私に、朱莉がニヤッと笑った。
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