私と日向君

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「午空さん、だってさ」 「なんであの人、私の名前知ってたんだろう……」  意味が分からずにいると、桂子が呆れた表情になる。 「なに云ってんの。日向君は、瞳と同じクラスじゃん。あんなイケメンと一緒に授業受けといて覚えてなかったの?」 「うん。サッパリ記憶にない」  そもそも、授業とは黒板を眺めるもので、イケメンを観察する時間ではない。歯切れよく応えた私の言葉に、2人が笑い出す。 「ねえ、瞳。次に会ったらちゃんとお礼云いなよ。あの時はありがとうございましたって」 「え、無理だよ」 「なんでよ。もしかしたら、今後に繋がるかもしれないのに」 「だって、あんな整った顔、記憶に残らなそうだもん」  もっと分かりやすく粗があればいいのに、今の男子は典型的な線の細いイケメンだった。 特徴といえば、黒檀のような髪と透けるような白い肌くらい。あそこまで綺麗だと、流しそうめんよりも早く脳からあっという間に通り過ぎてしまうだろう。 「日向君、だっけ」 「そうそう。日向当夜。もしも午空に気があったらどうする?」  面白い名前だな。 それだけを考えて、私、こと午空瞳はサンマに添えられたカボスのようにサッパリと笑い飛ばした。 「それはないよ、私、モテないもの」 「えー、そうかな」 「だってこんな男顔だし、背は低いけど、パッと見たら少年みたいじゃない」  私の自虐に、桂子が言う。 「いや、もしかしたら需要はあるかもしれないじゃん。少年は少年でも美少年顔だし。これはこれで眼服っていうか」 「オレは逆にそんな需要嫌だわ。午空さんがお姉さんホイホイなのは知っとるけど」  朱莉がため息をつく。 私だって、それはイヤだ。ゲイに人気が出ても嬉しくない。 「その髪型がいけないんじゃないの? 伸ばしてみたら?」 「似合わないからいいよ」  ベリーショートの私が笑うと、オシャレ好きな桂子が唇を尖らせる。そんな顔をされても、こっちも困るだけなのだけど。
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