私と日向君

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 いくらイケメンといったって、顔を覚えても活用される機会なんてないだろう。 私、モテないしね。 付き合うわけでもないし、会話をするほど仲も良くないし、席が隣になったとしても……いや、隣になったら流石に覚えるけどさ。 そんな理由で、私は親切な彼のことを記憶に留める意欲からさほど無かった。 「……イケメンかぁ」  普通は記憶に残りそうなものだけど、私の明晰ではない頭には引っかからない。 そういう、見るからに整っている容姿よりも、もっと分かりやすい特徴があった方がよっぽど覚えやすい。 イボのある鼻とか。太った腹囲とか。分厚い唇なんかはすごくいい。……って、これじゃあ火の鳥の猿田彦じゃん。 「それに、見た目のキレイな人はマコさんでお腹いっぱいだよね」  知り合いの容姿を思い浮かべ、うんうん、と頷く。そんなひとり言を云いながらスーパーに入っていくと、私は目についた特売のナスを籠に入れた。 みずみずしくて、美しい光沢のある紫の野菜だ。大きさも申し分なく、私は満足な気分になる。 それから、熟したトマトとエノキを選び、大きな玉ねぎも買うことにした。牛乳も入れ、精肉売り場で目当てのものを発見する。 「……あった! 半額のホルモン!」  半額割引のシールが貼られた白っぽいホルモンを見つけ、私はぱあっと顔を明るくする。 先生から教科書を資料室に運ぶように言われた時には間に合わないかと思ったけど、なんのなんの。ちゃんと手に入ったではないですか。  もうその場で踊り出したいような心境になりながら、私は大事にスーパーの籠の中にそっと乗せる。キャベツは家にあるし、玉ねぎは買うし、これでちゃっちゃと炒めれば夕飯が完成する。 「ふふふ~」  何をさておき、私はモツが好きな女子なのだ。  今を生きるモツ好き女子だ。
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