私と日向君

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 ウキウキとレジに籠を持っていくと、いつものお兄さんが会計をしてくれる。間延びした声でありがとーござあいます。と云われ、持っていたエコバッグに買い物を詰めた。 外に停めてあった自転車に買い物を積むと、手で押していく。そのまま帰ろうとしたところで、スマホがピリリと鳴った。 「……あ、お父さん」  画面に表示された名前に、私は落ち着いてタップをする。耳に当てると、向こう側から声がした。 「うん。……うん、今帰るところ。これで夕飯を作ったら、私は道場に行くから」  一緒に食べよう。そう言われて、私は眦を緩めた。 辺りは夕暮れで、空は藍色になりかけている。強い突風がこちらの短い髪をなびかせた。 「……うん、分かった。そうするね。またね」  近くの線路で電車が走り去る。 カンカンカンと乾いた踏切の音が、耳の奥で聴こえていた。
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