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「ほら、デートなんだから手をつなごうよ」
「……なんでそんなカップルみたいなことをしなくちゃいけないの!」
「今どきそれぐらい普通だって。フツー、フツー。ひっひっふー。ひっひ、ふー」
ラマーズ法まで持ち出した日向君の自然な仕草に、私はうっかり騙されそうになった。けれど、よくよく考えればバックにファンクラブなる存在を抱えている男子なのだ。素直に手をつないでしまったらもめ事になることは想像に難くない。
「は、まさか。これは私を生かさず殺さずで長期的に苦しめようという魂胆なんじゃ……」
「それってどれだけ僕は悪辣な男なの」
呆れたような声が返ってきて、目を丸くすると。ふは、と日向君が笑みを洩らした。
その笑顔が本当に嬉しそうだったから、溢れんばかりにあった文句が出口を失ってしまう。
結局、バツの悪い思いをしながら私は言った。
「ごめんなさい」
「……え?」
「日向君を殴っちゃって、ごめんなさい」
口端を歪めて告げる。その言葉を受け取った彼は、困り顔で頬をポリポリかいた。辺りにいた生徒たちの波が引いていく。警戒するように残っているのは秋田さんや桂子、朱莉に斉藤君だった。
「……僕は」
喋ろうとした日向君に、今まで黙っていた斉藤君が話しかける。
「……日向、ここは人目につきすぎる」
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